うつ病などストレス性疾患の労災認定基準と安全配慮義務違反
私自身が職場の長時間労働に悩まされてきた経験から、過重労働により精神や身体に健康障害(病気)を生じさせることに対する問題意識が強くある。
過重労働でストレス疾患を患い死亡または重度障害を負った労働者の家族らが、国を動かし、平成14年にストレス性疾患に関する
労災認定基準(平成14年の厚生労働省通達の要旨)を勝ち取ったのだそうだ。
それ以来、発症前1ヶ月間の時間外労働100時間超または2ヶ月ないし6ヶ月平均の時間外労働が80時間超の場合は、
労働災害と認められるようになった。
産業医への助言指導の義務化などを追加し平成18年通達によりさらに強化されて現在に至っている。
業務に起因する災害は労働災害とされ、ケガに限らず病気もその対象となる。
病気の場合、私傷病か業務災害か判然としないことが多いが、ストレスに関する限り、業務に関連するストレスか仕事以外のストレスかの
判断基準を、国はすでに通達によりチャートにして示している。(平成11年9月14日労働省通達)
労災と認定されたことが直ちに使用者の過失責任が問われることはないが、その傷病に関し安全配慮義務違反がある場合は、
契約不履行責任による損害の全額を賠償する責任が出てくる。一定金額の賠償は労災保険がカバーしてくれるが、慰謝料は労災保険には
ないことや死亡事故など逸失利益が莫大な金額になった場合は使用者が賠償することになる。
これら昨今の過重労働問題に火をつけたのが、平成12年3月24日の電通事件に対する最高裁判決である。
(事件の概要)
Aは、平成2年4月1日、大手の広告代理店であるY会社に就職し、ラジオ局ラジオ推進部に配属され勤務していたが、平成3年8月27日、
自宅において自殺した。
Aの両親(X)は、Aは、Yから長時間労働を強いられたためにうつ病に陥り、その結果自殺に追い込まれたとして、Yに対し、
安全配慮義務違反または不法行為による損害賠償を請求した。
(判決の要旨)
「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を
損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に
限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理する努めるべき旨を定めているが、それは、
右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものを解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に
従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことが
ないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行なう権限を有する者は、使用者の
右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」
(中略)
「企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に
従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の
過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということが
できる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行なう者は、各労働者がその従事すべき業務に適するが否かを
判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。
したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする賠償責任請求に
おいて使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として斟酌することはできない
というべきである。」
この判決で最高裁は、会社側に過失責任の損害賠償として、因果関係のある全損害の賠償を命令した。

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