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その5 小手先よりもまず労働環境の整備から


マンハッタン

 「中小企業が労働基準法を守れるわけがないですよね」。

 異業種交流会の勉強会で、あるコンサルタント系会社の経営者はこう言って私の顔を見た。

 正しい労使関係を学ぶ会での発言である。労務管理の専門家である社労士がどんな反応をするかを見たかったのかも知れないが、 私は法を知る立場からその意見に反論しながらも内心はその考えに半ば同意してしまっていました。

 労働基準法が制定されたのは昭和22年です。 第2次産業中心の頃の労働時間規制がいまだに残り、労働した時間ではなく仕事の質が成果を左右するサービス産業や販売系の会社の 実情に合わなくなっているのではないかという疑念が、ずっと私の中にありました。だから小規模の商店や販売系の会社などでは 週40時間労働など土台無理な話だという思いが「正直」あったのです。

 また筆者自身が週40時間労働とはほとんど無縁の職場で働いてきたため 「あのとき会社に鍛えられたお蔭で今の自分がある」という精神論が今でも意識の底に残っているからかもしれません。

 しかしよく考えてみると、価格競争やサービス競争が激化し少ない人員で 切り盛りしなければ生き残っていけないことは多くの企業が直面しており、それは第2次産業といえども例外ではありません。

 では製造系の会社が労基法をよく守り、第3次産業の会社が労基法を守れないのか。

 第3次産業の職場では個人が仕事の単位と なることが多く仕事のしかたや能力に個人差があり実労働時間把握の意味が希薄なこと。また労働時間と生産性向上との関連が あまりないことから、残業時間に対応する割増賃金支払義務が企業の負担感を増大させていることが理由として上げられます。

 もう一つ、労基法を守りづらくしている理由に条文そのものの曖昧さと わかりにくさがあります。管理監督者の範囲、裁量労働制の範囲または事業場外のみなし労働時間制の解釈など枚挙にいとまがないほどです。 あえて曖昧さを残すのも法の特徴なのかもしれません。曖昧な部分は労使の自治に委ねられればそれはそれで良い法律なのかもしれませんが、 労基法は数多くの判例が積み重なっています。

 そうした判例主義の弊害を批判したくても判例を重視する司法風土の中で身動きとれなくなって いるのが現状です。

こんな古臭いオンボロ法律など守れるわけがない」と 悪態をついても愚痴にしかすぎません。企業は労基法を守らなければいけません。それは会社を守るためです。 どうせ守らなければいけないのならよく知って対応を研究し、さらには従業員のモラルアップを狙って前向きに守ろうではありませんか。

 こんな事例があります。ある従業員100人の卸売業の会社がありました。 仮にC社としましょう。就業時間は表向き9時から17時としていましたが実際は8時には全員社内清掃し8時半には得意先に飛び出していく。 壁には個人別売上実績グラフが張ってあり、売れなければ早く帰社できるわけがなく全員20時にしか帰ってこない。 20時半から営業会議が毎日21時まで開かれていた。社員は出社時と帰社時にタイムカードを打刻していました。 営業成績に応じて高い営業手当を支給していたが残業手当は支給していなかったそうである。

 入社して半年の新入社員が成績が上がらないことを社長から叱責された後、 自主退職しました。そこまでは良かったのですが、その退職社員が労働基準監督署に全部申告してしまったため、監督署が調査に入り、 労基法違反で未払いの残業手当100人分を過去3ヶ月分支払う羽目になったそうです。その総額3000万円。

 この話にはおまけがあり、退職したその社員からも過去の時間外手当を 要求する内容証明が届き、やむなく支払ったところ次々に退職した元社員から内容証明が届いたそうです。
(この事例は北見昌朗著「サービス残業・労使トラブルを解消する就業規則の見直し方」 東洋経済新報社刊より引用)

 営業は社外で会社の目の届かないところで働くのだから所定労働時間働いたと みなしていいのでは?どこの会社でもそうしているではないか、と言いたいでしょうが、労基法第38条の2における事業場外労働の みなし労働時間の条文は一筋縄ではいかない難物なのです。

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