その7 部下に問題意識を持たせる
筆者が以前勤めていた会社の人事部の上司は、部下に任せながらチェックを怠らない人だった。
「篠塚君、今度の会社説明会の準備の状況はどうなっているか」
「はい。学生の参加申込みが10名といまいちですが、準備は順調にすすんでいます」
「何が順調だ。ちょっとこっちへ来て説明してくれ」
いろいろな企画の仕事が好きだが少々自信過剰気味だった私は、 自分の思い通りにならないときでも自分を通そうとする傾向があった。
「メインの説明者は誰にするのか。もう承諾は得ているのか。あと1ヶ月で目標の 30名に到達できるのか」
上司は、問題点を一つひとつ指摘し、「君はどう考えているのか」と質問することにより 予見されるリスクを全部洗い出してくれた。
結局学生の参加者をあと一ヶ月で20名増やすことが、上司からみると私の希望的観測に 過ぎないことを大きな問題として指摘された。それに対する対策として、営業部の社員に学生への電話コンタクトへの協力を求めることになった。
入社3年目の人事部員が営業部門の力を借りることなど思いつくわけがなく、 「ま、DMだけで何とかなるだろう」という甘い認識しかなかったのである。
この仕事だけでなく、私はことあるごとにこの上司から延々2時間近くも質問されることもあり、 答えに窮する場合でも自分の頭で考えた解決策を示さなければならなかった。
「なんと細かい上司だろう。重箱の隅ばかりほじくられたらたまったもんじゃない」と、 反発の気持ちを顔に出していた私におかまいもなく、「気配り」と「最善をつくす」「うっかりミスをなくす」という仕事上の大切さを教えてくれた。
この上司のおかげで私の企画する社内行事やイベントはだんだん評価を得て行ったように思う。 それが自信になりしだいに自己効力感を持てるようになった。
入社したての若い頃は多かれ少なかれ意識過剰となっていることが多い。 つまりやる気が充満し早く一人前として認められたいという気持ちが強すぎて、時に周囲の反感を買ったり、ミスを連発する。わかりやすくいうと、 目標意識は十分持っているがそれを遂行する手段についての知識がないということなのかもしれない。
知識には2通りある。〜〜ということを知っているだけの知識はクイズ番組に出るのが せいいっぱいであり、所有型知識といわれる。それと反対に、いかに〜〜するかを知っているのは遂行型知識といわれ、生きた知識であり、その知識や 経験を仕事や生活に生かすことができる。わかりやすくいうと、大学卒の新入社員は所有型知識は多いのだが、遂行型知識が乏しいのである。
所有型知識を遂行型知識に変えるには遂行型知識の特徴をおさえなければならない。
| 1. | 自分はどういうタイプの人間かを知り、 自分の可能性や傾向を周囲と比較して相対化できる。(自己認知) |
| 2. | ある状況ではこういうことが起き、 こうなるであろうといった行動や出来事の蓋然性の認知 |
| 3. | かくかくの状況や立場ではこういう役割や行動が 期待されているといった状況への認知 |
お分かりの通り、これらは本を読んで得られる知識ではなく、経験に裏打ちされ、 思考しながら獲得する知識である。部下の指導や育成に必要なことは、いろいろな仕事を任せることで経験を積ませ、 自分の頭で考えさせることが大切だというのと同じである。
では単に部下に任せておけば部下は成長するのかといえば、そうではないような気がする。 知識や経験はあくまでも手段にしか過ぎない。部下に「絶対にその仕事を成し遂げなければならない」という強い目標意識がなければ、 義務感だけでは怠惰に陥ってしまうのが人間の弱点なのではないだろうか。
経験や知識というフィルターを通してしか人間は物事を見ることができない。 だから若い人に経験を積ませることが大切なのだが、目標意識というエンジンと舵がなければ見るちからが弱くなり方向も定まらない。
目標を正しく意識することによって問題意識が芽生えてくる。 自分や周囲の状態がこのままではいけないからこういう状態にしていきたいという問題意識は、眼前の状態が目標に照らしたときに問題がある、 と意識することからスタートする。
前述の事例では、私は「学生の申込みがいまだ10名である状態」を 問題としてとらえていない。一方上司は、今までの経験と人事部の責任者としての役割意識から「それは問題である」と捉えている。 私と上司の間で目標意識の強さに開きがあったのだと思う。
問題意識が乏しい部下に「問題意識を持て」というのは簡単だが、 言われた部下は何のことだかわからない。意識というのは常に私的なことであり、他人が指揮命令したり与えたりできないものだ。
では、会社で部下に問題意識を持たせるには、部下にどのような働きかけを したらいいのだろうか。
| 1. | 自分が何を期待されているかを自覚し、自分で目標を設定できる。 |
| 2. | その目標達成にむけて、やり方や手段を自分で選択でき、 ほうれんそうが気軽にできる環境があり必要に応じて助言や応援が得られること。 |
| 3. | ひとつひとつクリアーしていくことで自信につながり、次の目標設定ができる。 |
| 4. | 周囲に仲間として受け入れられ、認知されていること。 |
通常のマネジメント理論で言い尽くされている結論に到達してしまったが、 これらはOJTのプロセスと同じであることに気づいた人は少ないのではないだろうか。つまり日常の部下指導・育成の活動において、 これらをいかに強く意識してあたり、職場の風土となっているかによって職場のモチベーションのレベルが決定付けられていくのではないだろうか。
参考文献 http://www.h2.dion.ne.jp/~ppnet/view04.htm 問題意識を育てる(高沢公信)

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